2008年9月16日火曜日

「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」を観る

トミー・リー・ジョーンズの監督・主演による「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」を観る。


ちなみに、このエントリーを書くにあたって、軽くデータを調べたら、この作品の脚本を書いている人は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督と組んで仕事をしている人で、「アモーレス・ペレス」から「バベル」までの一連の作品を書いている人なんだそうです。
いや、凄いね、この人。
ちなみに、この作品と一緒に借りてきたDVDに「バベル」があります。こちらは、今週中に観るつもりでっす。

さて、内容ですが、これまで数々の作品のモチーフになっている、メキシコとの国境線の“両側”が、テーマですね。国境というのは、“境界線”そのものなんですが、その、ある種の人たちにとっては、その境界は、「たまたまそこに引かれているに過ぎない」程度の存在だったりするんでしょうが、しかし同時に、それは、命を懸けて超える対象になり得る、と。

で。
この作品ではさらに、“孤独”というテーマが語られています。国境のこちら側、つまりアメリカ人は、徹底的に、孤独であるように描かれています。
そして、その向こう側の人間たち、つまりメキシコ人たちは皆、家族を持ち、家族を愛し、その為に生きている、と。そう描かれるワケですね。

死んでしまったメルキアデスは、家族を愛するがゆえに、「死んだら故郷に埋めてくれ」と語るワケです。
そして、トミー・リー演じるピートは、その、メルキアデスが持っている(と、語られる)家族への愛情へ、“憧憬”を抱く、と。
それが、メキシコへ“越境”する動機になるワケで。

その、アメリカ人の“孤独っぷり”の描き方っていうのは、まぁ徹底してますよね。
ダイナー(飲食店)の、ガランとした空間と、青白い色味が醸し出す、白々しい、寒々しい空気感というのは、メキシコの村にある、ガヤガヤした、若い女性がピアノを弾いている飲み屋と対比されているし。
同じテレビ番組を観る、というメタファーも、片方は、優しさの欠片もない(その“早さ”も含めて、ね)セックスが行われるキッチンと、もう片方は、隣人愛的な優しさを分け与えてくれるメキシコ人の猟師たち、という風に描かれて。
国境近くに住んでいる盲目の老人の描き方なんかも、取りようによっては、結構エグいしね。

つまり、アメリカ人たちは、孤独で、空虚な人間関係の中で生き、対照的に、境界線の向こうの住人であるメキシコ人たちの生活は、家族愛や隣人愛に満ちた生活を送っている、と。


その、アメリカ人たちの孤独っていうのは、虚栄心とか、そういうのに繋がってるんだよね。「男ならクールであれ」みたいな同質化圧力みたいのが、多分アメリカ社会にはあって。
この虚栄心についての部分が、結構ポイント。



で、ストーリーは、前半はアメリカの田舎町での、ちょっとサスペンスな雰囲気で“犯人探し”があって、中盤以降は、国境越えと、その後の、砂漠を歩いたりする、ロードムーヴィーになるんですね。
その、砂漠を越える道中と、最後の地で、犯人の“虚栄心”が剥がれていく、みたいな流れになってて。
あまりその部分にフォーカスはされてないんだけど、恐らく、作り手側にとっては、大事なテーマになっているんだと思います。


演出面では、とにかくセリフが、削ぎ落とされていて、これはホントに、素晴らしい。
これは、トミー・リーが製作も兼ねているところから考えると、シナリオ段階でトミー・リーの意図がかなり込められていて、そういう、セリフを絞った脚本を敢えて作ったんだと思うんですが。
その、セリフではなく、動きや、背景やら立ち位置やらの画面自体、そして俳優が演じる“間”で、語っていく、と。
役者が自分で作品を撮るという時に、こういう、無言の部分が多いモノが出来上がる、というのは、興味深いアレなんですけど、でも、こういう作品こそを作りたかった、と。そういうことですからね。

とにかく“間”をたっぷり取った演出は、素晴らしいです。ホントに。
というか、大好きです。


もう1つ、素晴らしいのは、背景となる、テキサスとメキシコ(まぁ、地続きなんですけど)の風景ですよね。空とか、超キレイ。
田舎町の、夕方の赤い色味なんか、最高ですよね。多分、この光線の美しさを立たせる為に、昼間と夕方で、敢えて同じ構図のショットを作ってるんだと思います。
それから、砂漠。野生のヒマワリの間を必死こいて犯人が逃げるショットは、良かった。


もう1つ、これはホントに上手いと思ったのは、やっぱり、車の使い方ですね。
ピートの車が、ボロボロのトラックだったり(これは、後々の馬に乗る姿との対比にもなってて)、保安官の半ドアの警告音が、面白かったり。

あと、馬。馬と、ラバ(ラバって!)。
ラストの馬についてのシークエンスが、効いてるますよねぇ。いいです。



うん。

シナリオと、いい役者と、巣晴らしいショットと、そういう諸々が幸福な出会いをしている、素晴らしい作品ですね。



それから、追記的に書いてしまうと、「ノー・カントリー」はこの作品からかなり影響されていると思うんです。
で、そう考えると、イニャリトゥ監督が与えた衝撃っていうのは、ホントに大きかったんだなぁ、と。改めてそう思いました。

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