2010年12月18日土曜日

「サラマンダー」を観る

ミッドナイトアートシアターで、「サラマンダー」を観る。


予備知識なし、期待なしで、ほぼ偶然に近い感じで観たんですが、ちょっと想像と違ってたのがいい意味で裏切られて、という作品。

舞台は、近未来、ですね。
いわゆる“ドラゴン”が地上を支配していて、という、まぁ、「マッドマックス」とかに実は近い世界観だったりするんですが、要するに、「剣と魔法の~」というファンタジー系のアレではない、と。

「サラマンダー」は、その“ドラゴン”を指したタイトルなワケですが、俺はてっきり、そっちのファンタジー系の作品かと思ってたら、どうやらそうじゃない、と。
近未来。


で。

その世界観の設定は面白いと思ったんですが、例えば、主人公が“剣”とか振るってくれたらよかったのにな、と。
実際は、ライフルとか、もっぱらそういう武器しか登場してこないんで。


「剣とライフル」なら、これは、「ファイナルファンタジー」じゃないですけど、もっともっと面白くなったのになぁ、と。


この「もっと面白くなったのに」っていうのが、実は作品全体に対する感想だったりして。

まず挙げられるのが、この、“剣”について。
せっかく主人公が馬とか乗ってるんだから、と。
デカい斧は武器として登場してくるんで、ここで“剣”が出てくれば、かなりカッコよくなって、観てる側のテンションももっと上がったんじゃないかなぁ、と。

もう一つが、ドラゴンの造形。
当然CGで作られたドラゴンが動くワケですけど、このドラゴンの“顔”がイマイチ。
どうもねー。

これって、“この手”の作品に結構ありがち、というか、西洋の人が思う“禍々しさ”ってこういう顔なんだな、ということを思わせる、というか。
爬虫類に似せて造形しないんですよねぇ。なぜか。
“人”に似せて作っちゃう。


もっとクールなドラゴンの造形にすれば良かったのになぁ、と。


いわゆる“ラスボス”ってのがいて、要するに、そいつを倒して終わり、なワケですけど、そのラスボスの造型がイマイチ、と。


あと、そのラスボスとの戦闘が、あまり盛り上がらない。
これは完全にシナリオ面での失敗なんだけど、「最初の作戦どおりに倒す」という流れで、ここも実は最初の「剣があれば!」というのにつながるんだけど、要するに、戦闘のシークエンスで盛り上がるワケですよ。
剣を構えれば。

そこがね!


惜しい!


ホントに惜しい。


舞台は、「近未来のロンドン」で、主人公はイギリス人。
で、アメリカ人の軍人、という脇役が出てきて、彼らは戦車とか戦闘ヘリとかを持ってる。
だけど、そういう現代兵器が、ドラゴン(サラマンダー)の口から吐く火焔に全部やられちゃって、というストーリーの流れなんですけど、そこまで“フリ”を溜めておきながら、最後も“火薬”に頼っちゃう、という、ね。


剣でしょ!


斧でもいいけど!



肉弾戦じゃないの!


そんな、斜に構えてカッコつけるような作品じゃないじゃん!



と、思いました。


登場人物たちのキャラ立ちとか、すごい上手で、最初は悪漢って感じのアメリカ人軍人の“謝り方”も凄いイイ感じで、そういうトコは上手なクセに、大事な「いかにテンションを挙げるか」ってトコで、どうも詰めが甘い、というか。
なんか、「新しいトコ狙いすぎ」?


そうじゃねーだろ、と。


ラストは、“刃物”でラスボスの首をぶった切って終わるんだよ。
そういうモンでしょうが、と。



なんか、CGもそうなんですが、セットとかすげーカネかかってるんですよねぇ。
最初の、人間たちが隠れ住んでいる砦のセットとか、もの凄い凝ってて雰囲気あったりして。
戦車もヘリも出てくるし。

あと、荒廃したロンドンの光景、とか、結構クールで。



ところがねー。


その、“肉体”の部分っていうか。
肉感的な部分の演出でイージーミス!
チョイスミス!



う~ん。


惜しい!



と、そういう作品でした。



あとねー。
最後の「フランス語」云々ってトコもな~。

アイスランド語とかロシア語にして欲しかったな。
せめてドイツ語。


フランスなんて、目と鼻の先だもんね。

そういうトコがね。
なんか、「カッコつけ過ぎ」って感じなんだよねー。


というワケで、非常に「惜しい!」作品でした。
でわ。


2010年12月14日火曜日

「クロッシング」を観た

新宿武蔵野館で、“隠れた”オールスターキャスト作品の、「クロッシング」を観た。

実は、この「クロッシング」は邦題で、原題は「ブルックリンズ・ファイネスト」。
この原題の言葉は、まぁ、慣用句というか、このまんまのタイトルのヒップホップのヒット曲があったりして、ざっくり意訳しちゃうと「ブルックリンで一番ヤバいヤツ」みたいな感じ。
で、この邦題は、やっぱ失敗ですよねぇ。
「交錯する」みたいな意味合いで「クロッシング」ってことだと思うんですけど、それならいっそ「クロス」とかにしておけば、「キリスト教」云々の部分も意味付けできなのにな、なんて。
だいたい、「交錯」しないんだよねぇ。
そこが「売り」じゃないのに、という、ね。


というワケで、いきなり原題にケチつけちゃいましたが、なんか、作品全体がなんかそんな感じ。
なんか「イマイチ」感がね、という。

いい作品なんだけど、と。なんか詰めが甘い感じ。


まず、リチャード・ギアがそれっぽく見えない。
仕事にくたびれた、そしてやる気がまったくない定年退職直前の制服警官を演じてるんですが、これがぜんぜんそう見えないんだよな〜。ぜんぜんくたびれてる感じに見えない。
「定年の退官を目前にした警官」というのは、この手のサスペンス/クライム・アクション系の作品には、かなり頻出するキャラクターなんですけど、まぁ、たとえば「セブン」のモーガン・フリーマンがそうなワケで。
(あちらは私服刑事で、こちらはパトロール警官、という違いはありますけど)

とりあえずそこの感じがねー。


オールスターでやるのはいいんだけど、と。
この違和感は、最後までわりと強かったりして。


イーサン・ホークは、信仰心(カトリック)からくる罪の意識と苦悩と自責に次第に追い込まれていく刑事を、かなり熱演してて、これはホントに「どうしようもない苦しみ」がビシビシ伝わってくる感じで。

話がそれますけど、そもそもキリスト教(特に、カトリック)は、「原罪」をまず人に背負わせておいて、という形で「信仰」に縛り付ける、みたいな構造で出来てるワケで(いや、あくまで俺の解釈では、ということです。念のため)、この「呵責の気持ち」の駆動力は、そうとういいです。

まぁ、イーサン・ホークが担うプロット部分は、全部いいです。ディテールも含めて。
特に子供たちとのやりとりは、セリフとか最高。

で。
もう一人の主人公が、名手、ドン・チードル。
この作品では、ちょっと珍しく、タフな役柄を演じてるんですが、その、「ちょっと珍しく」の部分がとても効果的な、素晴らしいキャスティングで、「タフなギャングを装って潜入捜査をしている刑事」の「表の顔」でも「裏の顔」でも、まぁ、完璧な感じ。
あいかわらず素晴らしいですね。
さすが、俺たちのチードル。裏切りません。

ちなみに、ドン・チードルの相方役が、ウェズリー・スナイプス。このキャスティングは、ちょっとわざとらしい感じがしますが(あんまり新鮮味がない、というか、ね)、まぁ、こちらも相変わらずの存在感でした。

それから、リチャード・ギア。
こちらは、くたびれた制服警官で、こちらのプロットは、「惰性」とか「人生と生活」(どちらも、ライフ)に膿み疲れた「惰性」を駆動力にストーリーがドライブしていく。

まぁ、シナリオとかホントに素晴らしいと思うんですよねぇ。
くたびれた制服警官の、犯罪現場(拉致誘拐・人身売買)への伏線の張り方とか、見事だと思うし。

ドン・チードルの、「裏の顔」の苦悩が徐々にギャングとしての「表の顔」に表出してくる感じとか、捜査機関同士の対立とか内部のいざこざとかも、限られた条件でも(というか、会話のせりふだけで)きちんと描けてたりして、ホントに巧いと思うし。

ただ、その、複数のラインで進んでいくそれぞれのストーリーを、そもそも複数のラインで語る必要があるのか、と。
そこが弱い。
もっと絡み合えばいいのになぁ、と。
直接的に登場人物同士が関係し合う、というだけじゃなくって、ストーリー構造の要素同士が反響し合う、という形でもいいと思うんですけど。(でも、そっちの方が難しいのか・・・)

とにかく、そこが、と。


三人の男が、善意と悪意と自己愛と、そして、大きな社会の仕組みに、だんだんと押し潰されていく。
そこのストーリーの運びは最高なんだけど、と。

三つのストーリーラインが互いに響き合っていない、というトコと、リチャード・ギアがなんだか浮いちゃっているトコ。この二つ。
ストーリーは面白いんだけどね。練ってあるし。
ただ、どうせ練るなら、あと、せっかくオールスターキャストで撮るなら、と。
スター同士のぶつかり合いだってみたいワケですから。

と、シナリオ面では、そんな感じ。



映像は、ストーリーの重い空気感に合った、しっかりとしたタッチ。
この、映像の空気感とストーリーの重さが一致している、というのは、この監督のひとつのウリなんだと思います。
個人的には、こういう雰囲気の画は大好きなので、ポイント高いです。

ちょっと、編集の間が独特で、たまに「え?」みたいな瞬間があるんですけど、まぁ、あまり大事なポイントではないっスね。
舞台となるブルックリンの雰囲気を殺さない画はホントに上手で、特に、黒塗りの高級車を撮るショットなんかは最高にクール。
あと、プロジェクト(団地)の空撮のショットも最高でした。



だからねー。
惜しむらくは、と。

だから、よくよく考えると、もうほぼ完璧な作品なワケですよねぇ。
だけど、と。
なんかちょっとだけ詰めが甘くて、そのちょっとしたポイントのせいでなんか印象がぼんやりしちゃう、という。

もったいない!


と。
なんか、個人的にもの凄い期待値が高かった分、消化不良を抱えながら映画館を出た、という作品でした。
でわ。