2009年5月10日日曜日

「スモーキン・エース」を観る

一応、ベン・アフレックが主演ってことになってる(個人的には、主演はアリシア・キーズ)、「スモーキン・エース」を観る。


いやぁ。
傑作。

こんな面白い作品だなんて、全然そんな話なかったんですけど。(というか、今でも評判はあまりよくないっぽい)
いいでしょ。大好きです。
個人的には、「ユージュアル・サスペクツ」以来かも。


まず。
アリシア・キーズが殺人的に美しい!
このことを、まず書いておかないと、という感じです。マジで。
殺人的に美しい。

アリシアが娼婦(を装った殺し屋)を演じる、というだけで、心臓バクバクしますけど。


それから、ディテールを幾つか。
そのアリシアが登場するシークエンスで、彼女は殺し屋なワケですが、そのスタイルがいい。女の2人組なんだけど(相棒は「ハッスル&フロウ」に出てたクシャクシャ顔の女優さん)、アリシアが娼婦に化けて潜入してターゲットに接触して、もう一人が離れた所で巨大なライフル(ロケット弾みたいなヤツ)を構えている、という、このアイデアがクール。
前衛のアリシアと、後衛の相棒。で、そのライフルのスコープを使って、というシークエンスは結構グッと来ました。無線で話してるんだけど、スコープ(照準の十字マーク付き)でアリシあの姿を見ながら、という。
しかも相棒はレズビアンで、アリシアに惚れてて、と。
この関係性は、ライフルで離れた所からバックアップする、という相棒に対して、“動機”の奥行きを作ってるんですね。
うっかりしたら、この関係性だけで作品を一本作れるぐらいのアレですから。
ま、アリシアの美貌(と、胸。あと脚。もちろん目元と唇も。というか、全部)ありきで、ですけど。


もう一つは、ターゲットとなる男の経歴。マジシャンなんだけど、ショービズからマフィアに転身してしまう、という男。
この設定は、はっきり言って面白いですよ。そういう“裏の世界”に多少なりとも憧れを抱いている人って、ショービズの世界に限らず、いるハズだし、しかもラストに明かされる「出生の秘密」とも、実は繋がっている設定だったりするから。
実は作中ではあまり語られないんだけど、これは「父と息子」の物語だったりするワケですよね。ただの“軽い男”じゃないワケです。ターゲットの男は。私生児(違うか? 少なくとも、シングルマザーの子)として育ち、マジシャンとして成功を果たした後に、父親の住む世界(マフィアの世界)に足を踏み入れていく、という、それはそれで、ちゃんと語ろうと思えば語り得るストーリーがそこにあって。(ちなみに、作品中ではホントに全然語られてないんですけどね。もったいない)



で。

最も注目しないといけないのは、その「構造」。
ストーリー上の「構造」ではなく(もちろん、それとも関係してくるんだけど)、ストーリー上に設けられている物理的な「構造」です。

上手く説明出来るか分かりませんが、とりあえず言えることは、「密室」を幾つも作るワケです。
ホテルのスイートルーム、エレベーターの中、警備室、と。
ホテルのエントランスフロアも、広がりがある空間とは描かれなくって、凄く狭い空間として描かれてて。
ワシントンの会議室も“密室“であると言えばそう言えるし、例えば、マフィアが寝ている寝室みたいなの(後に、病室)も、“密室”と言えるし。

で。
特にホテルでは、スイートルームという、水平方向に広がった空間と、エレベーターという、垂直方向に繋がった空間が交わってるワケですね。
銃撃戦は、上下の2つのフロア(と、スイートルーム)で起きて、そこを、エレベーターという空間が接続している。
時間軸が多少無視されていて、そこを演出上の弱点と認識しちゃう人もいるかもしれませんが、個人的には、そんなことはどうでもよくって。
この、物理的な「密室空間」を幾つも設ける、という感覚が、とりあえず、凄い。

そこに、物凄い人数の人間が投入されるんですけど、ある者は死に、ある者は助かり、間一髪で逃亡し、逃亡しかけて殺されたり、と。
この混沌の感じもいいですね。投げっぱなしの感じも、個人的には大好きです。



特に、2つのフロア(ペントハウスと7階)で同時に銃撃戦が始まる瞬間は、ホントにクール。
こんなシークエンスを作れる(撮れる)なんて、監督冥利に尽きるんじゃないんでしょうか。



しかし、コモンはおいしいね。
役柄も凄いクールだし(コモンは声が良くって、それがシリアスな会話のシーンにマッチしてて、雰囲気を作ってる)、ラストにアリシアを連れて、ということだし。
エスコート・ヒーロー。
良いです。


それから、“ホテル”で言うと、舞台となるホテルのすぐ目の前に建っているもう一つのホテル、というのがあるんですね。
最初、この存在が妙で、普通ホテルの窓の外っていうのは、湖がバーンと広がって、その景色の美しさもウリです、みたいなアレになってると思うんだけど、そうじゃなくって、もう一つホテルが建ってるワケです。
で、それを最初っからちゃんと映していて。
スイートルーム(最上階)と、他の階の部屋だと、階の高さが違うから、窓の外の景色も違ってくる、みたいな演出があって、それだけだと思ったんですけど、そうじゃないワケですね。そちらのホテルから、アリシアの相棒が狙っていて、ということになってて。
この設定は、実は結構大事だったりするワケですよね。
うん。



いや、でもやっぱり、「密室」かなぁ。面白いのは。
上手に説明出来ないんだけど。



大勢いる登場人物の“キャラ立ち”については、正直ピンと来ませんでした。
「男塾」みてーだな、とは思ったんですけど、だからどうした、という結末ですから。
あんま関係ないっスね。



ストーリーの運びは、色んなラインが交錯する、という、いわば群像劇のスタイルで進んでいくんですが、それぞれが上手にシンクロしてる感じがして、ここも好感。
例えばガイ・リッチーは、個人的にはその“シンクロしてる感”が欠けている、という風に感じてて。
こういう話の運び方は、とても気持ちいい。
前半のかったるい流れは、後半部分の一気にドライヴしていくアクションパートの布石にもなってて。
音楽は物凄いダサいですけどね。


あ、それから、ディテールとしては、ラストの病院のシークエンスにひとつ注目ポイントがあって、その病院に入っていくカットで、隅の方に映ってる警官の演技が凄い良かった。
返り血を浴びたままの(FBI捜査官の)主人公格の男が病院に入っていくんですけど、そこで、フッと動くんですね。制服警官が。
その演技は、ホントに自然で、作品全体でもとても重要なシークエンスの導入になってるこのショットで、凄い“いい仕事”をしてるな、と。



もう一回観ちゃうかも…。



そんな作品でした。

子供は観ちゃダメだけどね。



あと、演出的な「感情のライン」はぐちゃぐちゃです。そういうのを致命的な欠点と感じちゃう人には、お薦め出来ない作品ですね。
世間的な評価の低さっていうのは、その辺りに原因があるのでしょう。きっと。
個人的には、この作品に関しては、そういうのはあんまり関係ないっス。

うん。


傑作。


2 件のコメント:

  1. う~ん。
    思わず、もう一度見直してしまった…。


    で、いくつか訂正。
    音楽は、特に前半部分は超クールでしたね。
    ただ、後半、叙情的(に、見せよう)というシークエンスに入ってからの音楽がダサい。


    感情の流れも、二度目に観た時はそんなに気になりませんでした。
    まぁ、二度目だから、ですけど。
    普通は(最初は)話の筋を頭の中で咀嚼するので精一杯だったのでしょう。きっと。


    それから、ラス前の、例の病院に入る書っその直前、もう一つのホテルの窓がちゃんと割れている、というポイントを発見。
    うん。
    ひょっとしたら、三度目に観てもまだまだ楽しめる作品かもしれません。

    そういえば、「ユージュアル・サスペクツ」は、劇場で「二回目は1000円で」というチケットを配ってました。
    もう一度観たらもっと面白いですよ、ということで。
    この作品もそんなノリなのかもしれませんね。


    そして、アリシアは二度目でも殺人的に美しいです。
    素晴らしい。

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  2. あ、それから、ワシントンの会議室だと思ってた“密室”がLAでしたね。
    そこも訂正。

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