2014年12月11日木曜日

「Nas / life is illmatic」を観た

立誠シネマで、稀代のリリシストNasのドキュメンタリー「life is illmatic」を観た。



ナズNasの、半生を描く、ということではなく、デビューアルバム「illmatic」と、そこに至るまでの少年時代を追う、という形のドキュメンタリー。

基本的に、この切り取り方が成功している作品、ですね。
人生全体ではなく、あるいは当時のヒップホップ全体でもなく(ギャングスタラップについては、まったく言及がない)、天才ナズの、一作目に絞った内容で。


ひとつ面白かったのが、「影響を受けた」という色んなアーティストのインタビューが出て来るんですが、殆どが、一言だけ、というところ。
なんて贅沢なんだ、というか。

アリシア・キーズなんか、いつものバッチリメイクでインタビューに応えてるんですが、ほぼ「凄かった」ってだけで終わってます。
作品がとにかく締まった感じになっているのは、インタビューにしろ何にしろ、とにかく内容を絞ってるのが巧くいっているからだと思うんですが、それも「切り取り方」の巧さ、ということですね。

アルバムの楽曲の曲ごとのエピソードなんかも、ピート・ロックの話とか、結構ゾクゾクしちゃうんですが、その曲に頼り過ぎないんですね。
一曲丸ごと、とか、そういう風にはならない。
変に感傷的にもならずに、DJプレミアもQティップも、快くインタビューに応えている、という雰囲気で、“今の”ライブでラップするところと、当時のミュージックビデオの映像を交えながら、サクサク進んでいく感じで。
このテンポ感が、いいんだと思います。



ナズ本人の言葉で印象的だったのが、「自分はそんなに悪くない家庭で育った」と言っているところ。
働き者の母親に愛情をしっかり注がれながら育ったんだ、と。そういう風に語っています。
だから、道を誤らずに済んだ、と。
両親の離婚が“幸福な家庭”に陰を差した、と語るんですが、ナズの実弟が「それでちょっとグレた」と。
この辺りの“構成”も、上手いなぁ、と。

もう一つが、クラック禍が蔓延する前の“パーティー”の感じは、「ハッピーだった」みたいに言うんですね。
でも、と。

クラックが、ぶち壊してしまった、という。



中盤、メイン・ソースのラージ・プロフェッサーにフックアップされる、というシークエンスで、「Live at BBQ」という曲のライブ映像が流されるんですが、そのステージ上にいるラージ・プロフェッサーやそのクルーたちが、なんか楽しそうなんですよ。
パーティーを楽しんでる感じ。
自分たちのステージなんだから、当たり前っちゃ当たり前なんですけど、自分たちが連れてきた“ナスティ・ナス”がラップするぜ、みたいな時に、すげーノリノリな感じでステージに並んでて。

新人の天才リリシストが登場することで、なんか、皆が「アガってる」ワケですよねぇ。
この感じ。


勝手な解釈ですけど、クラック禍に壊されてしまったコミュニティの“連帯感”みたいなのを、そのコミュニティから天才が登場したことで、もう一度取り戻す、みたいな。
いや、実態は、そんなに甘いモノじゃない、というのも間違いないんですが、なんていうか、そういう“空気”みたいなのを感じたりして。

いいなぁ、と。



もう一つ印象的だったのが、「ブリッジ・イズ・オーバー」に至る“バトル”について、当時を振り返って語るナズの表情。
いい顔して語るんですよねぇ。ソファの背もたれに腰掛けて。
あのショットは、良いです。
ロクサーヌ・シャンテにステージに上げてもらったのにスベって、怒られた、とか、そういう話も最高。


子供の頃、兄に無理やりラップを聴かされて、面倒だから「ダメだ」と言ってたけど、内心では「凄い」と思ってた弟、とか、その辺も最高。



うん。


やっぱり、ポイントとしては、繰り返しになりますけど、ナズのキャリア自体(例えば、二枚目以降)ではなく、あくまでデビューアルバムとそのアルバムの背景にフォーカスしていることが、凄い締まった良い作品になっている要因だと思うんですね。

この切り取り方だと、実はナズ本人も「対象について語る語り部の一人」に過ぎなくなっていて、という構図になってて。
なんていうか、健全な距離感、というか。

「illmatic」という作品には、社会や時代背景、ナズが育った環境、家族、ヒップホップという総体的なムーブメント、などなどの要素が、ナズ本人の意思・意図とはまた違う必然性を持って流れ込んでいて、そういうのを巧く語っている、と。

良いと思います。



技法としては、写真を映像として取り込んでいるんですけど、その時に、ある程度加工してるんですね。
単純に写真を動かしたりとか、人物を切り取って浮かび上がらせるようにしたりとか、あとは、フォーカスを弄ってミニチュアみたいに見せる手法があるんですけど、そういうのを使ったりとか。
それぞれの技法自体は、例えばフォトショップなんかで簡単に出来るようなアレかもしれないんですけど(詳しくは分かりませんが)、やり過ぎず、かといってシンプルに写真を繋げるだけでもなく、という感じで。

で、作品の最後に、アルバムのジャケット写真のエピソードが語られるんです。
作品の構成として、そういう風に、巧く「写真の話」に持っていくようになってる。

エピソード自体もグッとくる感じですが、なんていうか、構成もポイント高いですよねぇ。

写真そのものも、凄いクールだし。




うん。


いや、褒めてばっかりですけど。



単純にドキュメンタリーとして(技術的・技法的に)優れている、というだけでなく、作り手の“対象”に対する愛と敬意が伝わってきて、なおかつ、その敬意を観る側が“共有”できる、という。

そういう、良い作品でした。
機会があれば、ぜひどうぞ。





















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