2009年12月24日木曜日

「ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男」を観る

まぁ、長いタイトルですが、そのうえ2部作だ、という、その「ノワール編」と「ルージュ編」を、2作まとめて、先週観て来たので、その感想でっす。


ちなみに、“社会の敵No.1”っていうのは、“パブリックエナミー#1”ということで、ワリとあちこちで見かける言葉ではありますね。
ジョニー・デップの最新作も、ずばり「パブリックエナミー」ってタイトルだし。

そのJ・デップの作品はもちろんアメリカの“一番悪いヤツ”を描いているんでしょうが、この作品は、フランス。主演は、フランスの当代一といえる、ヴァンサン・カッセル。

ま、「やくざ者の一代記」「成り上がり記」ですね。
“自伝”が原作になってるってことで、実録モノ、「仁義なき戦い」みたいなモンです。


しかし!
2本立てなんか久しぶり!
そもそも、二つとも新作扱いなワケで、併せて3600円!


しかも、映画館(吉祥寺バウスシアター)の中で、観てるの、俺だけでした。
ホームシアター状態。もちろん、2作とも。

つーか、そんな状態で観てる俺は、完全に変わり者扱いですよね。トイレに都合で4回行ったし。


まぁ、そんな個人的な事情はさておき。



作品の感想を。


まず、あとから分かるんだけど、2作を通じての全体の造りっていうのがあって、まず冒頭に、作品の一番ラストのシークエンスが流れるんですね。
で、そのシークエンスが、シークエンスの中でも何も明らかにされないまま終わる。
分かるのは、主人公と、恋人と思しき女性の2人。

このシークエンスは、いわゆるオープニングクレジットみたいな感じで、「007」のあんな感じのオープニングで、と書くと伝わるでしょうか。
ちょっとシャレた感じの、というワケでもないんだけど、とにかく、そういうオープニング。

で、その一連の“オープニング”が終わった後に、主人公の“若き日々”が始まり、「一代記」が語られていく、と。
まず、前編。
で、前半が終わって、次に後編なワケですが、そこでは、前編の“オープニング”のシークエンスの続きが流れるんです。
そこで、物語全体が“バッドエンド”で終わることが明示される。
で、前編のラストからやや飛躍した形で、後編のストーリーが始まるんです。
で、ストーリーが全部終わろうというところで、前編と後編のそれぞれの“オープニング”で語られていたシークエンスが、再び語り直される。
この、「直される」という部分がポイントで、“視点”が変わるんですね。

この、作品全体の終幕となる、「改めて語り直される」シークエンスは、かなり面白いです。緊張感があって。
これは、“視点”が変わっていることが、なんだかいつもと違う効果を作り出していて、要するに、長時間見せられていた主人公が、急に引き離された存在に感じちゃうんですね。
実際に画面には映ってるんですが、“視点”が変わってるモンで、要するに「志村ぁ! 上うえ!」というヤツで、自分には見えてるんだけど画面上の人物には見えていない、という、お決まりの構図が、その“画面上の人物”に寄り添ってきた時間が長いだけに、この「もどかしさ」がイイ感じで緊張感をチャージしてくれる、というヤツで。


ただ、その“終幕”までが、長い・・・。
一代記だから、それはそれでしょうがないんですけどねぇ。「仁義なき戦い」だって、シリーズ全部観ようと思ったら、それは長く感じちゃうでしょうしね。


ちなみに、その“オープニング”は、なんだか無駄に「24」ライクな分割画面を採用してます。
個人的には、この、画面を分割して映すって、あんまり好きじゃないんですけどね。
そういうのも含めて、作品全体に、なんだかワリと「テレビサイズ」の画って感じでしたね。クローズアップが多くて。
もちろん、それだけじゃなくって、空撮もありだし、画面全体を使って思いっきり引いた、凄い映画的なショットもありましたが。
まぁ、カネはやたら掛かってます。キャストも、オールスターだし。

あと、音楽はなんだか鳴りっぱなしって感じでした。使い方が上手だとは思わなかったけど、まぁ、効果的ではあったかな、というか。セオリー通り。



で。
ストーリーはまず、アルジェリア戦争での戦場体験から始まります。
アメリカでは、ベトナム戦争が(今なら湾岸戦争やイラク戦争でしょうけど)、こういう扱われ方でもって語られるワケですが、フランスにとっては、アルジェリア戦争。

そこで体験した諸々を胸にしまい込んで除隊・帰国、と。そして、“家庭”での平穏な暮らしには馴染めずに無法者たちの仲間に、という、この辺は、万国共通のスタイルですね。
軍隊というのはアウトローの供給源としては万国共通なんだなぁ、と。

軍隊というのは、「戦う為に」という理由で、厳しい訓練によって、どうしても、ある種の“人間性”というか、“穏やかな暮らし”への適応性をまず剥ぎ取ることが“軍隊への適応”の始まりなワケで、つまり、「内面的な再編」を強いるワケですよね。指揮下にいる兵士に対して。
どこの国でも。
それが除隊、帰国したからって簡単に「穏やかな暮らし」に適応できるはずもないし、という。
ホモソーシャルな感じもそうだしね。

つまり、軍隊と犯罪組織っていうのは、とても親和性が強いんだ、と。

この作品でも、そういうとこはちゃんと踏まえて、ということで、戦争が終わり(戦線が縮小し)、戦場から母国へ帰されても、「再編された内面」を抱えたまま、「平和への適応」をしないといけないんんだけど、そんなに簡単にはいかなくて、と。
ランボーシリーズの第一作も、文字通りそういう姿を描いた作品だったワケですが。

この作品では、ギャング組織に入って、ということで。

で、その後は、やくざ者のくせに“清純”な女性と恋に落ち、“ファミリー”と家庭との板挟みになり、という、まぁ、ありふれたと言えばその通りの筋立てで話が進んでいく、という。


面白いのが、フランスの警察から逃れるため、逃亡先として“新大陸”であるカナダに渡航するんですね。
そうか、と。
ケベックはフランス語圏なワケで、納得なんですけど、例えばイギリス人だとストレートにアメリカ(USA)になるんだろうし、アイルランド系も、同じくアメリカ合衆国。イタリア人もそう。ドイツも、東欧も、多分同じ。
スペイン人だと、これが南米になったりするのかなぁ。
当のアメリカ人は、これがメキシコになったりするんでしょうけどね。
この辺の、フランス人の“新大陸”の感覚はちょっと面白かったです。


で、カナダでは、ケベック独立を掲げる過激派のメンバーと共闘関係を結ぶ、という展開に。
ここもちょっと面白かった。

「政治」というファクターも、まぁ、この時代のフランスを(というか、フランスに限らず、世界のどこでもイデオロギー闘争が全てを支配していた、という時代だったワケですけど)描こうとしたら外せない要素であって。
また、フランス人ってそういうのが好きだもんねぇ。

で、最初はワリと、「右も左もダメだね」なんて言ってるんですね。ところが、ラストに近くなってくると、主人公がだんだん「革命だ」とか言い始める。

実は、ずっとこの“革命”というか“政治絡み”というファクターは提示はされていて、時節時節を示す言葉として「ドゴールが」とか「ピノチェト」とか「モロ」「赤い旅団」なんていうがずっと使われてて。

そういうも含めての“システム”ってことなのかなぁ、なんて思ってたんですけど(そこに現代性を込めた、とか、そんな感じで)、そういう解釈はちょっと違うみたいですね。
きっぱりと“極右”“ファシスト”のアンチとして描かれる、という風に変わっていきます。
この辺の話は、例えば、スピルバーグの「ミュンヘン」なんかを併せて観ると面白いかもしれませんね。それから、この秋にテレビで見た、ジョージ・クルーニーが監督して作った(ソダーバーグが製作です)「コンフェッション」とかも。


それから、一代記だけに、舞台が色々変わるんですが、敵と仲間が次々と変わっていく、という話の進め方もなにげに独特かも。
恋人も変わっていくんだけど、相棒も変わるし、好敵手(ルパン三世でいうところの銭形)も変わる。

この辺は、自伝を元にしてるってことで、“based on true story”の良さかもしれません。
ここが、完全なフィクションなら、例えば一番最初に愛し合った売春婦や、結婚して子供をもうけた“清純”な奥さんとか、そういう人がラスト近くになって登場して、今の人生や運命との対比を、なんてことになりがちだと思うんですけど、そういう風にならず、その代わり、なんと、娘との再会、というシークエンスがあります。(この娘がまためちゃめちゃ美人なんだ!)

このあたりは、個人的にはちょっと首を傾げちゃう感じ。
もっと、主人公を突き放すか、美化するならそっちに振り切るか、というのが、ブレちゃってる気がしてしまいました。
だって、別に反省とかしてないからねぇ。少なくとも、俺の印象では。

だから余計に、ということかもしれませんが、自分の両親との“和解”みたいなシークエンスは、作品の中でもかなり浮いてしまってます。和解に当たっての両者の動機も、イマイチ釈然としない。

まぁ、実話がそうなってる以上そう描く必要があった、ということなのかもしれませんし、俺の解釈が間違ってるのかもしれませんし。そこら辺はちょっと分かりません。


で、なんか異様に美人にモテる主人公は、女と相棒をとっかえひっかえしながら、ついに、という。



ま、長いけど、それだけの“人生”だよね。確かに。
このボリューム感をちゃんと描こうと思ったら、確かにこの長さは必要だし、これだけのカネも必要ですよ。
それは確かに、そう思う。



でも、実は、もっとバイオレンスなギャング映画なのかなぁ、なんて思ってたんですけどねぇ。
あんまりそんな雰囲気はなかったですね。
カナダの刑務所でのアクションシーンとか、凄い良かったけど、これだけ長さのある作品だと、どうしてもピースひとつひとつの印象は薄まっちゃう、というのもあるし。


あ、そうだ。
当時のパリやフランスの様子を描く、という部分は、凄い良かったです。特に車が。
カーアクションとかもかなりカネが掛かってると思うんだけど、当時の雰囲気を出す、ということで、特に車がみんな、当時の車って感じで。(パトカーもフォルム丸っこくてかなりカワイイ)

まぁ、だから、そういう全体の雰囲気を楽しむ作品なんスかねぇ。美人しかでてこないし。


というワケで、DVDで観てたらもっと高評価な作品だったかもしれません。
なんせ3600円払ってますからね。厳しくなりますよ。それは。
そこはしょうがないっス。

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